ほしいものが、ほしいわ。
これは糸井重里が生んだ、80年代バブル期の日本を象徴する名コピーだ。
あれから数十年、消費社会は形を変え「モノより体験」なんて言葉が巷でささやかれるようになった。実際、Z世代は体験に価値を見出す──なんて調査結果もあるほどだ。
それでも、やっぱり物欲ってやつはふつふつと湧き起こってくる。あーでもない、こーでもないと悩みながら、「欲しいもの」が頭をぐるぐるする感覚。片っ端から買い揃えられたらどんなにいいか。でも、残念ながらそんな財力はない。
それに──
欲しいものって、手に入れる“まで”が一番楽しい。
実際、ネットショッピングで一番気持ちが高まるのは、商品が届いた瞬間ではなく、「購入ボタン」を押した瞬間だという調査もある。あの一呼吸のスリル。モノそのものより、妄想と期待のほうが甘美なのだ。
だからこそ、欲しいけど手に入らないものを、ただ妄想するという行為にも価値があるんじゃないかと思う。
あれが欲しい。これも欲しい。手に入れたらこんな暮らしになるんじゃないか──と、ひとりニヤニヤする。
そんな、「欲望と思考実験の中間点」みたいな企画。
それが、この「妄想 I Want」である。
目次
お香立て
第一回目はお香立て。
在宅で仕事をする私にとって香りは儀式みたいなもの。
この香りがしたら仕事モード、この香りがしたらリラックスタイム──といった具合に、空間と心を切り替えるスイッチになる。
お香立ても、実はけっこう種類がある。ただ、機能性という点では正直どれも大差ない。じゃあ何が違うのか?──そう、佇まいである。
いくつか紹介したいお香立てがあるけど、とはいえすでにお香立てはいくつか持っているのでまずは持っているものを簡単に紹介したい。
BRANCH INCENSE HOLDER FLOCCUS
まず紹介したいのは、WEST VILLAGE TOKYO の真鍮製お香立て「FLOCCUS」。
これは「ハタガネ」と呼ばれる治具(※木工などで使う固定具)を使用しており、機能美と工芸の中間にあるような佇まいが魅力。
ずっしりと重みのあるオール真鍮製で、置いておくだけで空間に静かな重厚感が宿る。サイズ選びをちょっと間違えたけれど、それすらも含めて愛着が湧く。
なにより、こういった無骨な治具が、日常のインテリアとして再解釈されているところがすごくいい。実用と造形、工業と日常のはざまにあるプロダクト。

Astier de Villatte
もうひとつ、Astier de Villatte(アスティエ・ド・ヴィラット)のお香立ても紹介したい。
フランスの芸術学校・ボザールで出会ったイヴァン・ペリコリとブノワ・アスティエ・ド・ヴィラットによって1996年に設立されたブランドだ。
彼らは19世紀に廃れてしまった古来の陶器技法「エスタンパージュ」を現代に復活させた。その技法によって作られる陶器は、どれも手作業ゆえの繊細な個体差と温もりに満ちていて、ひとつのカップを作るのに約15日間もかかるという。
彼らが手がけるプロダクトは陶器を中心に、キャンドル、お香、香水、文具、ボディケア、果ては食器用洗剤まで。
陶器でできたお香立ては小さいながらに儚くも力強い存在感を放っている。※持っているものが売り切れだったので似たようなものを掲載

Astier de Villatte | アスティエ ド ヴィラット – Astier de Villatte 日本公式オンラインストア
続いて欲しいものの紹介。
Astier de Villatte hand

Serena Hand インセンスホルダー – Astier de Villatte 日本公式オンラインストア
まず今一番欲しいやつ。
先ほどと同じくAstier de Villatteが、フランスのアーティストセレーナ・キャロンヌとコラボレーションした陶器製お香立て、その名も「HAND」。
指先でそっとお香を持つ、なんとも言えないシュールで可憐なフォルム。アスティエらしいクラシカルな陶器の質感と、どこかユーモラスな造形のギャップがたまらない。
価格はまさに桁違い──でも、それ以外はすべて完璧。
このオブジェが机の片隅にあるだけで、部屋の空気は確実に変わる。
Perfumer H インセンスバーナー

インセンスホルダー インセンス お香 香り 銅 ロンドン オーストラリア デザイン 真鍮 香水 オブジェ 重厚 線香立て – Studio Henry Wilson Japan
次に気になっているのが、ロンドンのPerfumer Hオーナーであるリン・ハリスとオーストラリアのデザイナー、ヘンリー・ウィルソンが直接コラボレーションして生まれたお香立て。
このお香立ては、無垢の真鍮製でずっしりとした重厚感と静かな存在感を放っている。
Henry Wilsonは、「不完全さの中に宿る美」を信条とし、素材の質感と構造に強い関心を持つデザイナー。Aesopの一部店舗設計でも知られ、クラフトマンシップとモダンさを絶妙に両立させている。
APOTHEKE Brass Incense Stand -renew-
そして、もうひとつ狙っているのがAPOTHEKE FRAGRANCEの真鍮製お香立て。
APFRは2011年に菅澤圭太によって設立された日本のブランドで、すべてのフレグランス製品を千葉県の自社工房で手作りしているという丁寧なものづくりが魅力。
彼らの香りは、伝統的な香料文化や自然哲学、食、音楽などから影響を受けており、まさに「匂い付きのアルバム」を届けるような世界観。
このお香立ても真鍮製だけどHenry Wilsonのような重量感よりも、繊細な曲線と余白を感じさせるデザインが美しい。

おわりに
こうして並べてみるとお香立てひとつにしても、それぞれに背景があり佇まいがあるなと思った。
手に入らないものを妄想するのは虚しいことじゃない。なんでも手に入ったらそれはそれで退屈な気がする。大体のことやモノはうまくいかないけど、それでもたまに手に入るからなんか嬉しかったり愛着が湧いたり。
そんなことを考えながら今日もネットの波を漂う。物欲の波は尽きないかもしれない。けど、尽きたらそれはそれで今の時代、豊かに暮らせるのかもしれない。
ってかそんなにお香立ていらないよね…